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鳥取地方裁判所 昭和63年(行ウ)1号 判決 1989年1月24日

鳥取県米子市米原五六四番地

原告

高林興産株式会社

右代表者代表取締役

高林健治

鳥取県米子市西町一八番地の二

被告

米子税務署長

遠藤俊英

右指定代理人

宮越健次ら

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六二年七月三一日原告に対してなした、原告の昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分のうち金三〇万八一〇〇円を超える法人税額の分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、青色申告の承認を受けた法人であるところ、昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)の法人税について原告のした確定申告、これに対して被告のした更正処分(以下「本件更正処分」という)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、右更正処分と併せて以下「本件各処分」という)の内容は別表一のとおりである。

2  しかしながら、本件各処分は、いずれも次の理由で違法である。

(一) 更正の理由附記不備について

税務署長が青色申告に係る法人税について更正をする場合、更正通知書に附記すべき理由は、具体的根拠を示したうえ、その記載自体によつて納税者が右理由内容を了知しうるものでなければならない。

しかるに被告は、昭和六二年七月三一日付法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書(以下「本件更正通知書」という)において、繰越欠損金の当期控除の過大額として一七七万五五三八円を計上し、前期からの繰越欠損金の控除末済額は零となるのでその差額として右金額を当期の所得に加算した旨記載するのみで、右記載自体からは本件更正処分の理由を理解することはできず、したがつて、本件更正処分には理由附記不備の違法があり、このことは仮に原告が右記載以外の事情から右理由を知りえていたとしても同様である。

(二) 更正権の濫用について

原告は、本件更正処分に先立つ、昭和五五年六月一日から昭和五八年五月三一日までの各事業年度の法人税について被告がした各更正処分に対する取消訴訟を提起し右訴訟が係属していたところ、被告は、昭和六二年二月一四日の期日において原告提出の同年一月一三日付最終準備書面に対し何も反論することはない旨陳述した。

このことは被告が右訴訟の敗訴を自認することに他ならず、被告は取り消し権限を有するのであるから、自ら進んで本件更正処分に先立つ前記更正処分を職権で取り消すべきであるのに、これを取り消さず本件更正処分をしたのは被告の更正権の濫用というべきであつて、右処分は違法である。

右のとおり、本件更正処分は違法であるから、これを前提としてなされた本件賦課決定処分もまた違法である。

よつて、原告は、被告に対し、本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1の事実はいずれも認める。

2 同2の各主張はいずれも争い、(一)の事実中本件更正処分通知書の記載内容及び(二)の事実中原告主張の訴訟が提起されていたことはいずれも認め、その余の事実は否認する。

(被告の主張)

本件各処分は以下に述べるとおりいずれも適法である。

1 理由附記の点について

青色申告に係る法人税について帳簿書類の記載を否認して更正する場合には更正通知書に附記すべき理由としては、一般に更正に係る勘定科目とその金額を示すほか、右更正をした根拠を右帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要するというべきであるが、法人税法五七条所定の繰越欠損金額のように、帳簿等の記載に基づいて税法上計算される繰越欠損金額を申告書に表示し、法人の会計処理上帳簿などに記載しないものについて更正するに当つては、申告者が右申告経緯等を踏まえたうえで更正理由を了解することができる程度の理由附記が行われれば足りるというべきである。

ところで、本件更正通知書には、原告が所得金額から繰越欠損金額一七七万五五三八円を控除して申告したこと及び調査による控除未済の繰越欠損金額は零円であり、その結果として所得金額が一七七万五五三八円増加する旨の理由が記載されているうえ、被告は原告に対し、本件各処分前の昭和五九年六月二八日付で、原告の昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの事業年度の法人税について、原告の翌期以降への繰越欠損金額は零円であることなどを内容とする更正等の処分を行い原告にその旨通知し、原告がこれに対し前記取消訴訟を提起したのであつて、右の各点を考慮すれば、原告は極めて容易に本件更正理由を了解し得るのであるから、本件更正通知書の理由附記には何らの不備はないというべきである。

2 更正権の濫用の点について

原告の主張は必ずしも判然としないが、仮に原告が決算期の異なる年度分に対する更正が相互に影響し合うことを前提として右主張を行つているものとすれば、右の前提自体失当であることは明らかである。

3 右1で述べた申告経緯などに照らせば、原告が前記繰越欠損金額があるとしてこれを所得金額から控除し過少申告をしたことについては、改正前の国税通則法六五条四項所定の正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分も適法である。

三  被告の主張に対する原告の反論

被告の主張はすべて争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因1の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各処分が適法であるか否かについて判断する。

1  先づ、原告は、本件更正処分について理由附記不備の違法がある旨主張するので検討する。

(一)  前記争いのない事実と成立に争いのない甲第七号証、原本の存在及び成立とも争いのない甲第六号証(添付書類を含む)によれば、原告が本件事業年度の法人税につき繰越欠損金の当期控除額として一七七万五五三八円を計上しこれを控除し当期所得金額を算出して確定申告したところ、被告はこれを更正したが、本件更正処分通知書には更正(加算)の理由として、調査による前記からの繰越欠損金の控除未済額は零となるので原告申告に係る右金額を当期の所得に加算したと記載されている(右記載の内容は概ね当事者間に争いがない)ものの、その実質的理由については特に説示がなくまた資料の摘示もないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  ところで、法人税法一三〇条二項が青色申告に係る法人税について更正をする場合には更正通知書に更正の理由を附記すべきとしているのは、法が青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、右趣旨に照らせば、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正する場合には、右記載自体を否認して更正する場合とは異なり、納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、附記すべき理由は、右更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示したものでなくとも、前記更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の目的を充たす程度に更正の根拠を具体的に明らかにしたものであれば適法であると解するのが相当である。

(三)  そこでこれを本件についてみるに、前掲各証拠、成立に争いのない甲第四号証、乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、

昭和五五年六月一日から昭和五八年五月三一日までの各事業年度の原告の法人税について原告がなした確定申告及びこれに対する被告の更正処分の内訳は別表二ないし四記載のとおりであり原告と被告との間では繰越欠損金の算入評価額についての見解に相異のあることが認められ、原告はこれに不服ありとして右各更正処分の取消訴訟を提起したこと(右訴訟の提起については当事者間に争いがない)

右訴訟の係属中である昭和六二年七月三一日被告は原告の帳簿書類の記載自体を否認することなくこれを肯定したうえで、翌期繰越欠損金は零となる旨の前事業年度についての更正処分(別表四参照)に基づき、原告が同年度の確定申告における翌期繰越欠損金に基づいて確定申告した本件事業年度への繰越欠損金の損金算入を否認し本件更正処分をしたこと、以上の事実が認められ、右事実によれば、被告は本件更正処分に際し原告の帳簿書類の記載を肯定したうえで原告申告に係る繰越欠損金の損金算入を否認したにすぎないものであるから、更正した根拠についての資料の摘示は必ずしも必要でないというべきである。

そうして、本件更正通知書自体については従前からの繰越欠損金の算入額につき原告と被告との間でいかなる理由により評価を異にするのか記載はないものの、それが、繰越欠損金に係る一番最初の更正処分の際の更正通知書の記載であれば格別、少なくとも本件については本件更正通知書記載の程度であつても繰越欠損金という事柄の性質上前記認定の事実ことに前事業年度の更正処分を前提として本件更正処分がなされていること等に照らせば更正処分庁の判断の慎重・合理性の担保及び不服申立ての便宜という理由附記制度の目的は充足されているというべきであり、理由附記の欠けるところはない。

したがつて、本件更正処分について理由附記不備の違法がある旨の原告の主張は理由がない。

2  次に、原告は、更正権の濫用を主張するが、その趣旨は必ずしも明らかでないところ、原告主張の原告作成に係る最終準備書面(甲第一四号証)の提出に対し被告が何も反論することはないと述べたからといつて被告が敗訴を自認したことにならないのは明らかであり原告の主張はその前提を欠きその余の点について判断するまでもなく失当であるし、他に更正権の濫用を基礎付ける具体的事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張も理由がないというほかない。

3  よつて、本件更正処分は適法であり、これを前提としてなされた本件賦課決定処分も本件事実関係の下では過少申告につき正当な理由があるとは認め難いのでこれまた違法な点はない。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、いずれも理由がないので、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平田勝美 裁判官 能勢顕男 裁判官 金光健二)

別表一

<省略>

別表二

課税経過表(自昭和五五年六月一日至昭和五六年五月三一日)事業年度

<省略>

別表三

課税経過表(自昭和五六年六月一日至昭和五七年五月三一日)事業年度

<省略>

別表四

課税経過表(自昭和五七年六月一日至昭和五八年五月三一日)事業年度

<省略>

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